繰り下げ受給は、受給開始を遅らせるほど年金額が増える一方、受給期間が短くなるほか、年金額の増加に伴って税金や社会保険料の負担が増える場合があります。
そのため、額面上の損益分岐点だけでなく、実際に手元に残る金額を基準に考える必要があります。
また、加給年金を受け取れなくなる場合や、繰り下げ期間中に生活費が不足するケースなどにも注意が必要です。
この記事では、年金繰り下げ受給で後悔につながりやすい失敗例や、額面・手取りそれぞれの損益分岐点、受給時期を検討する際のポイントについてわかりやすく解説します。
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年金繰り下げ受給の仕組みと増額率の基本知識
老後の資金計画を立てるうえで、まずは制度の全体像を正しく理解することが重要です。
受け取り開始時期を遅らせることで、将来受け取る金額が一生涯にわたって増えるという特徴を持っています。
例えば、65歳で受け取る予定だったものを数年遅らせるだけで、毎月の生活費のゆとりに影響することもあるでしょう。
- 将来受け取る年金額が一生涯にわたって増額される
- 毎月の生活費にゆとりが生まれる可能性がある
- 長生きによる資金枯渇のリスクを軽減できる
焦って決断して「こんなはずじゃなかった」と後悔しないためにも、まずは基本的なルールを把握しておきましょう。
以下では、具体的な増額の割合や、柔軟な受け取り方法の詳細について解説します。
繰り下げ受給は最大84パーセント年金額が増える制度である
受け取り開始を75歳まで遅らせた場合、対象となる方は本来の金額から最大で84パーセント増額されます。
(生年月日や受給権発生日によっては上限が70歳・最大42パーセントとなります。)
1ヶ月遅らせるごとに0.7パーセントずつ加算され、待機した期間に応じて毎月の受給額が少しずつ上乗せされていく仕組みです。
| 待機期間 | 増額率 |
|---|---|
| 1ヶ月 | 0.7% |
| 1年(66歳) | 8.4% |
| 5年(70歳) | 42.0% |
| 10年(75歳) | 84.0% |
例えば、本来月額10万円を受け取る予定の方が1年遅らせると、毎月の受け取り額は10万8400円になります。
一方で、額面が増えると税金や社会保険料の負担も重くなる場合もあります。
そのため、表面的な数字だけで判断せず、手取りベースでいくら増えるのかを慎重に確認してください。
基礎年金と厚生年金は別々のタイミングで繰り下げ受給できる
国民年金部分である基礎年金と、会社員時代に加入していた厚生年金は、それぞれ独立して受け取り時期をずらすことが可能です。
制度上、両方を同時に遅らせる必要はなく、片方だけを通常通り65歳から受け取る選択が認められています。
例えば、基礎年金だけを65歳から受け取り、厚生年金は70歳まで待機するといった柔軟な対応ができます。
基礎年金と厚生年金は別々に受給開始時期を選べます。
片方を65歳から受け取って当面の生活費に充てつつ、もう片方を繰り下げて将来の増額を狙う柔軟な戦略が可能です。
この方法であれば、待機中の生活費不足を緩和できる可能性があります。
ただし、家族手当のような役割を持つ加給年金を受け取れる状況にある場合は、慎重な判断が求められます。
ご自身の家族構成や貯蓄額を考慮し、どちらをどのタイミングで受け取るのが自分に合っているか検討しましょう。
年金繰り下げ受給で後悔する5つの失敗パターン
制度のメリットだけに目を向けてしまうと、思いがけない落とし穴にはまる危険性が潜んでいます。
額面が増えるという魅力の裏側には、税負担の増加や寿命による受け取り総額の逆転など、複雑な要因が絡み合っていると言えるでしょう。
良かれと思って受給を遅らせた結果、手元の貯蓄が尽きて日々の生活費に困窮してしまう可能性もあります。
- 額面の増額率だけを見て決断してしまう
- 税金や社会保険料の増加を考慮していない
- 加給年金など他の制度との兼ね合いを把握していない
- 待機期間中の生活費や予備費の計算が甘い
以下では、とくに陥りやすい5つの代表的な失敗事例とその背景について詳しく解説します。
損益分岐点より早く死亡して受給総額が少なくなってしまう
受け取り開始時期を遅らせたとしても、ご自身の寿命によってはトータルで手にする金額が減ってしまうリスクが伴います。
繰り下げた期間に応じて毎月の受給額は増額されますが、その分だけ年金を受け取る期間が短くなるという事実は避けられません。
例えば、税金や社会保険料を考慮しない単純計算では、70歳まで繰り下げた場合の損益分岐点はおおむね82歳前後となります。
繰り下げ受給には、受け取り総額が逆転する「損益分岐点」が存在します。
この年齢に達する前に亡くなってしまうと、結果的に65歳から受け取っていた場合よりも生涯の受給総額が少なくなってしまいます。
しかし、この遺族が受け取る過去の年金には増額率が適用されないため、結果的に受け取れる総額が少なくなる場合があります。
目先の増額率にとらわれず、何歳まで生きれば得をするのかという損益分岐点をしっかりと把握したうえで受給開始時期を検討してみてください。
年金増額により税金や社会保険料の負担が増えて手取りが減る
額面上の年金額が増えたからといって、その全額がそのまま生活費として自由に使えるわけではありません。
収入が増加することに連動して、所得税や住民税などの税金に加え、国民健康保険料や介護保険料の負担も重くなる仕組みが設けられています。
たとえば、受給額が40%増えても、税金や保険料の負担が増える場合があるため、手取りの増加率は額面の増加率を下回ることがあります。
- 所得税
- 住民税
- 国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)
- 介護保険料
額面だけを見て計画を立ててしまうと、実際に振り込まれた金額を見て想定より少ないと焦ってしまう事態になりかねません。
老後の生活設計を狂わせないためにも、税金や社会保険料がどれくらい引かれるのかを事前にシミュレーションしておくことが重要です。
表面的な数字に惑わされることなく、実際に使えるお金がいくらになるのかという手取りベースでの損益分岐点を確認しておきましょう。
繰り下げ待機中に加給年金を受け取る権利が消滅してしまう
配偶者がいる方の場合、制度の組み合わせを間違えると本来もらえるはずだったお金を受け取れなくなる危険性があります。
厚生年金の受け取りを遅らせている期間中は、条件を満たしていても加給年金という家族手当のような上乗せ分を受け取ることができません。
年間で約40万円というまとまった金額をもらえるはずだったのに、受給を遅らせたせいで受け取れずに終わってしまうケースも起こりえます。
年金制度は複雑であり、良かれと思ってとった行動が別の制度と干渉して不利益をもたらすことが多々あります。
とくに夫婦の年齢が離れているご家庭では、この加給年金がもたらす経済的メリットは決して無視できない規模になります。
ご自身が加給年金の対象になるかどうかを事前に確認し、どの受け取り方の組み合わせが世帯全体の受給額や手取り額にどのような影響を与えるのか、慎重に確認しましょう。
在職老齢年金による支給停止分は繰り下げ増額の対象外になる
定年後も働きながら受給を遅らせる場合、将来増額される金額が想定よりずっと少なくなってしまう事態が起こり得ます。
給与と年金の合計額が一定の基準を超過すると、在職老齢年金という仕組みによって本来もらえるはずの年金の一部または全部が支給停止となります。
- 給与と年金の合計が基準を超えると年金が支給停止になる
- 支給停止になった部分は、繰り下げても増額されない
- 全額支給停止の場合、支給停止額に相当する部分が繰り下げ増額の対象にならない
例えば、年金が全額支給停止となっている期間については、その支給停止額に相当する部分が繰り下げ増額の対象になりません。
一生懸命に働いて保険料を納めながら待機したのに、いざ受け取る段になって全く増額されておらず愕然とする方は少なくありません。
現役並みの高い収入を得ている方は、ご自身の年金がどれくらい支給停止の対象になる可能性があるのか、年金事務所等で確認しておくと安心です。
働き方と年金の受け取り方のバランスを考慮し、無意味な待機期間を過ごさないよう資金計画を立てたうえで検討しましょう。
繰り下げ待機中に貯蓄が底をつき生活が苦しくなってしまう
年金を受け取らない空白の期間に、想定外の出費が重なって手元の資金が完全に枯渇してしまうリスクも想定しなければなりません。
高齢になるにつれて、病気による高額な医療費や、古くなった自宅の修繕費など、まとまった現金が必要になる場面が増えてきます。
- 病気やケガによる高額な医療費・入院費
- 自宅の屋根や外壁などの大規模な修繕費
- 車の買い替えや予期せぬ故障の修理費
- 冠婚葬祭などの急な交際費
毎月の生活費を限界まで切り詰めて耐え忍んでいても、突発的な出費が発生した途端に家計が立ち行かなくなるケースは多く見受けられます。
貯蓄が底をつき、日々の食費すらまかなえなくなってしまっては、豊かな老後を送るための計画が本末転倒になってしまいます。
この特例を利用すれば急場をしのぐことは可能ですが、その代わり将来にわたって高い増額率の恩恵を受けることはできなくなります。
万が一の事態に備えられるだけの資金的ゆとりがあるかどうかを再確認し、無理のない範囲で受給開始時期を見極めましょう。
額面と手取りで変わる年金繰り下げの損益分岐点
年金の受け取り時期を遅らせるべきか迷った際、判断の軸となるのが損益分岐点という考え方です。
この分岐点を超える年齢まで長生きできれば、結果的に生涯で受け取れる総額が多くなる計算になります。
例えば、スーパーで買い物をする際に見える税抜き価格と、レジで支払う税込み価格が違うのと同じような感覚です。
額面とは、税金や社会保険料が引かれる前の総支給額のことです。
一方、手取りとは、そこから各種税金や保険料が差し引かれ、実際に口座に振り込まれて生活費として使える金額を指します。
表面的な数字だけを見て安易に決断してしまうと、老後の資金計画に大きな狂いが生じる危険性が潜んでいます。
長生きのリスクに備えるためにも、まずはご自身の状況に当てはめて確認してみましょう。
以下では、それぞれの視点における損益分岐点の違いや、事前に確認しておくべきポイントを詳細に解説します。
額面ベースの損益分岐点は繰り下げ受給開始から約12年後になる
税金などを考慮しない額面上の損益分岐点は、受給を開始してからおおよそ11年11ヶ月後となります。
実際に、70歳まで受け取りを待機した場合、81歳11ヶ月を迎えた時点で65歳から受け取り始めた場合の総額を上回ります。
もし75歳まで遅らせたのであれば、86歳11ヶ月が総受給額の逆転するタイミングと言えるでしょう。
| 繰り下げ年齢 | 損益分岐点(額面) |
|---|---|
| 70歳 | 81歳11ヶ月 |
| 75歳 | 86歳11ヶ月 |
ただし、この約12年という期間は、あくまで一切の税金や社会保険料が引かれないと仮定した場合の単純計算に過ぎません。
額面上の総額が増えれば増えるほどお得に感じますが、それだけで最終的な判断を下すのは危険です。
まずは基礎知識としてこの期間を把握したうえで、より現実的な計算として手取りベースでも確認しましょう。
手取りベースの損益分岐点は税金等の影響で額面より遅くなる
年金の受給額が増えることで、所得状況によっては所得税や住民税などの税負担が増える場合があるためです。
さらに、国民健康保険料や介護保険料といった、社会保険料の負担が増える場合がある点には注意が必要です。
- 年金受給額の増加に伴う所得税・住民税のアップ
- 社会保険料(国民健康保険・介護保険)の算定基準額の上昇
- お住まいの自治体による税率や保険料率の違い
例えば、額面では81歳で元が取れるはずだったのに、手取りで計算すると85歳まで生きないと得にならないケースも存在します。
手元に残るお金が想定より少なければ、日々の食費や医療費といった生活水準に直接的な影響を及ぼしてしまいます。
税金や社会保険料の負担額は、所得額や各種控除、加入する医療保険、お住まいの自治体などによって異なるため、個別に確認するようにしましょう。
ねんきん定期便の数字をそのまま鵜呑みにせず、手取り額も想定してシミュレーションを行ってください。
年金繰り下げ受給が向いている人とやめたほうがいい人の特徴
ご自身の置かれた状況によって、年金の受け取り時期を遅らせるべきかどうかの正解は異なります。
制度の仕組み上、すべての人にとって受け取り時期の先送りが有利に働くわけではない点には注意が必要です。
- 健康状態:長生きする可能性が高いか
- 資金力:待機期間中の生活費や予備費が十分にあるか
- 家族構成:加給年金の対象になる配偶者がいるか
例えば、65歳以降も働き続けていて給与収入だけで生活できる人がいます。
一方で、すでにリタイアして手元の貯金を切り崩している人もおり、それぞれの状況によって取るべき戦略が変わってきます。
目先の増額率に惑わされることなく、ご自身のライフスタイルと照らし合わせて冷静に見極めることが重要だと言えるでしょう。
老後の大切な資産を最大限に活用するためにも、メリットとデメリットの両面をしっかりと比較検討してみてください。
以下では、どのような人が受け取り時期を遅らせるのに適しているのか、それぞれの詳細について解説します。
健康状態が良好で当面の生活費をまかなえる貯蓄がある人は向いている
受け取り開始時期を遅らせた分だけ、生涯にわたって増額された金額を受け取れる仕組みが設けられています。
そのため、損益分岐点と呼ばれる受け取り総額が逆転する年齢を越えて、長生きするほど受給総額が増える可能性があります。
- 健康状態が良好で、長期的な受給を想定している
- 65歳以降も給与収入があり、年金なしでも生活できる
- 待機期間中の生活費や医療費をまかなえる十分な貯蓄がある
例えば、70歳まで受給を待機する間、毎月の生活費を切り崩しても底をつかない十分な貯蓄があれば、その後の老後の収入を増やすことにつながります。
毎月の年金額が増えることで、生活資金にゆとりが生まれる可能性があります。
もちろん、待機期間中に急な病気やケガでまとまった医療費が必要になるリスクもゼロではありません。
万が一の出費にも耐えられる手元の資金をしっかりと確認したうえで、受給時期の先送りを判断しましょう。
持病があり平均寿命より早く亡くなる不安がある人はやめたほうがいい
持病を抱えており、将来的な健康に不安を感じている方は、無理に受給開始を遅らせず、65歳からの受給も含めて検討しましょう。
待機期間中や増額された年金を受け取り始めてすぐに亡くなってしまった場合、受け取り総額が少なくなるリスクがあります。
結果として、生涯で受け取れる総額が65歳から受け取ったケースを下回る結果になってしまうと言えるでしょう。
- 持病があり、将来の健康に不安がある
- 手元の貯蓄が少なく、日々の生活費に余裕がない
- 損益分岐点(約82歳〜87歳)まで生きる自信がない
つまり、亡くなった時点での本来の金額で計算されるため、繰り下げによる増額を受けられないということです。
例えば、65歳から本来の金額を受け取り、日々の治療費や生活を豊かにするための資金に充てる方法もあります。
手元に資金があることで、結果として満足度の高い選択になることも多いものです。
長生きすることだけを前提にしたシミュレーションは、かえって老後の資金計画を狂わせる要因になりかねません。
ご自身の現在の健康状態や家族の病歴、資金状況なども考慮し、65歳からの受給も含めて適切な受給時期を検討してください。
夫婦の年齢差が大きく加給年金の受給要件を満たす人は慎重に判断する
配偶者との年齢差が離れており、家族手当のような位置づけである加給年金の対象となる方は、受給時期の決定に細心の注意を払う必要があります。
加給年金は配偶者が65歳になるまで支給される制度であるため、待機期間中に配偶者が年齢要件を満たす可能性があります。
その場合、権利そのものが消滅して受け取れなくなる点には注意が必要です。
例えば、夫が65歳で妻が60歳という状況を想定して計算してみましょう。
夫が70歳まで受給を待機した場合、本来受け取れたはずの約200万円の加給年金を完全に手放すことになります。
夫65歳、妻60歳の場合、夫が厚生年金を70歳まで繰り下げると、妻が65歳になるまでの5年分の加給年金(年間約40万円×5年=約200万円)が受け取れなくなります。
この損失分を繰り下げによる増額で取り戻すには、さらに長生きする必要があります。
実は、基礎年金と厚生年金の受け取り時期をずらす分割受給という方法が存在します。
厚生年金を65歳から受け取ることで、加給年金を受け取りつつ基礎年金のみを増額することが可能です。
制度を組み合わせることで、受給総額への影響を抑えられる場合があります。
目先の増額率だけでなく、世帯全体で受け取れる総額がどう変化するのかをしっかりとシミュレーションしたうえで決断しましょう。
年金繰り下げで後悔しないためのリスク回避戦略
年金の受け取り時期を遅らせることで生じる様々なリスクは、事前に確認することが大切です。
老後の資金計画において、すべての人が同じ方法で恩恵を受けられるわけではない点には注意が必要です。
例えば、すべての年金を一律で遅らせるのではなく、生活費の不足分だけを先に受け取るといった工夫が考えられます。
また、個人単位で考えるのではなく、世帯全体での収入と支出のバランスを見極める視点も欠かせません。
- 年金の種類を分けて柔軟に受け取る
- 個人ではなく世帯全体の手取り額で計算する
- 独学で判断せず、専門家のシミュレーションを活用する
焦って決断を下す前に、どのような選択肢があるのかを冷静に把握しておくことが失敗を防ぐ第一歩となります。
以下では、老後の資金計画を失敗させないための具体的な戦略について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
基礎年金のみを繰り下げて厚生年金は通常通り65歳から受給する
老後の生活資金を受け取りつつ増額を目指す方法として、年金の種類を分けて受け取る方法も選択肢の一つです。
日本の公的年金制度は2階建て構造となっており、それぞれ別々のタイミングで受け取りを開始できる仕組みが設けられています。
実は、この仕組みを利用することで、将来の収入アップを図ることが可能です。
たとえば、会社員として働いていた期間に応じた厚生年金は65歳から受け取り、それを日々の生活費の基盤とします。
そして、すべての国民が対象となる基礎年金、つまり国民年金部分だけは受給を遅らせることで、将来的な手取り額の底上げを狙うわけです。
- 厚生年金で当面の生活費を充てられるため、資金ショートを防げる
- 基礎年金を繰り下げることで、将来の受給額を底上げできる
- 厚生年金を先に受け取るため、加給年金を受け取り損ねない
この方法であれば、待機期間中に当面の生活費が足りなくなって「困ったな」と焦るリスクを大幅に軽減できます。
手元の資金に余裕がない場合は、片方だけを遅らせる分割受給をぜひ検討してみてください。
夫婦単位で世帯の手取り額をふまえた受給パターンを検討する
配偶者の年齢差やこれまでの働き方によって、受け取れる年金額や税金、社会保険料の負担割合が変動します。
そのため、夫と妻のどちらの年金を遅らせるべきかという個別の最適解は、家庭の状況によってまったく異なります。
たとえば、夫が長年会社員として働き、妻が専業主婦だった場合、夫の厚生年金を遅らせると妻の加給年金が消滅してしまうケースがあります。
このような状況では、夫は65歳で受け取りを開始し、妻の基礎年金のみを遅らせる方法も、世帯全体の手取り額を考えるうえで有力な選択肢になります。
夫婦の年齢差や過去の働き方によって、税金や社会保険料、加給年金の条件が複雑に絡み合います。
個人の額面だけを最大化しても、世帯全体の手取り額が減ってしまっては意味がないため、夫婦合わせたトータルでのシミュレーションが重要です。
夫婦の年齢差が少ない場合や、共働きでそれぞれが十分な厚生年金を受け取れる場合は、また違った計算が必要になります。
ご夫婦の年齢や過去の加入履歴を照らし合わせ、どの組み合わせが家計に合っているかを慎重に確認しましょう。
受給タイミングに迷う場合は年金事務所やファイナンシャルプランナーに相談する
ご自身にとって適切な受け取り時期を見極めるには、年金事務所などの公的窓口や、必要に応じてファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する方法があります。
年金制度は複雑であり、税金や社会保険料の計算、さらには健康保険の仕組みまでを総合的に判断して損益分岐点を算出する必要があります。
そのため、独学での判断には限界があります。
ご自身で計算しようとして、「本当にこの金額で合っているのだろうか」と不安を抱えたまま手続きを進めるのは大きなリスクが伴います。
- 複雑な税金や社会保険料を考慮した手取り額を計算してもらえる
- 家族構成やライフプランに合わせた受給パターンがわかる
- 独学では気づきにくい制度の落とし穴を事前に回避できる
専門的な知識を持つ第三者の視点が入ることで、ご自身では気づけなかった落とし穴を事前に回避できる可能性が高まります。
ただし、相談先の選定においては、担当者の得意分野や過去の相談実績をしっかりと確認することが求められます。
老後の大切な資金計画で後悔しないためにも、まずは無料相談などを活用して専門家の意見を聞いてみてください。
繰り下げ待機中にお金が必要になった場合のリカバリー方法
年金の繰り下げ待機中に、医療費や住宅の修繕費など、想定外の出費によってまとまったお金が必要になることもあります。
繰り下げ待機中にお金が必要になった場合のリカバリー方法は以下のとおりです。
以下では、待機中の資金ショートというピンチを乗り切り、老後の生活を守るための具体的なリカバリー方法について解説します。
繰り下げを取りやめて過去分の年金を一括で受け取ることができる
繰り下げ待機中に生活費が足りなくなった場合でも、過去にさかのぼって年金を一括で受け取る仕組みが用意されています。
実際に、受給を遅らせている途中で資金計画に無理が生じた際、この一括受給を選択して生活を立て直す方は少なくありません。
例えば、69歳の時点で急な入院費用が必要になった際、過去4年分の年金を一度に受け取って当面の支払いに充てられます。
- さかのぼって請求できるのは最大で過去5年分まで※
- 5年を超えた分の年金は時効により受け取る権利が消滅する
- 一括受給を選択すると、その後の受給額は増額されない
※原則として請求時点から5年以上前の年金は時効の対象となります。ただし、70歳以降の一定の対象者には特例的な繰下げみなし増額制度が適用され、請求の5年前に繰下げ申出をしたとみなして増額された年金を受け取れる場合があります。
ただし、法律によりさかのぼって請求できる期間は最大で過去5年分までと厳格に定められている点には注意が必要です。
72歳の時点で過去の分を一括請求しようとしても、時効の壁に阻まれて最初の2年分を受け取る権利は消滅してしまいます。
せっかくの年金を受け取り損ねることのないよう、万が一の救済措置の存在と時効のルールを正しく理解しておきましょう。
みなし請求による一括受給と繰り下げ開始の損得を比較して選択する
70歳以降まで繰り下げ待機を続けている途中でまとまったお金が必要になった場合は、その時点から繰り下げ受給を開始する方法と、一定の条件を満たす場合に利用できる特例的な繰下げみなし増額制度を比較しましょう。
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| その時点から繰り下げ受給 | 高い増額率を今後の年金に反映できる | 過去分をまとめて受け取れない |
| みなし請求 | 増額された過去5年分を一括受給できる | その後の増額率は低くなる |
まとまった資金を優先するか、今後の年金額を重視するかを踏まえ、長期的な受給総額も比較して選択しましょう。
年金繰り下げ受給の制度に関するよくある質問
年金の繰り下げ受給を検討する際、多くの方が制度の複雑な仕組みについて疑問を抱えています。
特に万が一の事態が起きた場合の対応や、具体的な申請手順に関する質問がよく寄せられます。
他にも、障害年金や遺族年金といった他の年金制度との併用ルールについて不安に感じる方も多いと言えるでしょう。
例えば、待機中に亡くなってしまった場合の遺族への影響などは、事前に把握しておくべき重要なポイントです。
以下では、年金の受け取り時期を遅らせる際によくある疑問について詳しく解説します。
Q. 繰り下げ待機中に本人が死亡した場合はどうなりますか?
本人が受け取らずに亡くなってしまったとしても、年金が完全に消滅してしまうわけではありません。
実際に年金制度では、本人が受け取るはずだった年金を遺族が請求できる仕組みがしっかりと整えられています。
例えば、68歳で亡くなったケースであれば、65歳から68歳までの3年分の年金が遺族に支払われます。
まとまった金額を遺族に残すことができるため、残された家族の生活費や葬儀費用として活用できると言えるでしょう。
ただし、この際に受け取れる金額には繰り下げによる増額率が適用されない点には注意が必要です。
万が一の事態に備えて、ご家族にも未支給年金の請求手続きについてあらかじめ伝えておきましょう。
Q. 繰り下げ受給の申請はいつどのような手続きで行いますか?
年金の繰り下げ受給は、原則として66歳以降、実際に年金を受け取り始めたいタイミングで手続きを行います。
老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰り下げる場合は、65歳時点で年金請求書を提出する必要はありません。
希望する受給開始年齢になったら、年金請求書や支給繰下げ申出書などの必要書類を提出して請求します。
手続きは年金事務所などで行えるほか、対象となる方は電子申請を利用できる場合もあります。
一方、老齢基礎年金と老齢厚生年金のうち、片方を65歳から受け取り、もう片方だけを繰り下げたい場合は、65歳時点で受け取り方法を選択して請求手続きを行う必要があります。
繰り下げ期間によって増額率が変わるため、受給を開始する前に見込額や必要書類を確認し、ご自身の資金計画に合ったタイミングで手続きを進めましょう。
Q. 障害年金や遺族年金を受け取っていても繰り下げできますか?
障害年金や遺族年金を受け取る権利が発生した場合、老齢年金の繰り下げ受給は原則としてできなくなります。
例えば、67歳で配偶者が亡くなり遺族年金の受給権が発生した場合、67歳までの増額率が適用されます。
その後は67歳時点の増額率で計算された老齢年金を受け取ることになり、待機を続けてもそれ以上増えることはありません。
実は、障害基礎年金を受け取っている方が老齢厚生年金を繰り下げるケースなど、一部の例外が存在します。
他の年金制度を利用している方は、ご自身のケースで受け取り時期を遅らせることが可能かどうか年金事務所に確認することをおすすめします。
まとめ:年金繰り下げの後悔を避けるには手取り額と家族構成で判断しよう
年金の繰り下げで後悔を避けるためには、増額率だけで判断するのは避けた方がよいでしょう。
額面が増えるという言葉だけを聞くと魅力的に感じてしまうかもしれません。
しかし、実際には税金や社会保険料の負担が重くなり、手元に残るお金が想定より少なくなるケースも存在します。
例えば、配偶者との年齢差が大きい場合、厚生年金を繰り下げている期間は加給年金を受け取れません。
加給年金とは条件を満たした配偶者や子どもがいる場合に上乗せされる家族手当のような制度であり、この権利を失う影響は決して小さくありません。
そのため、結果的に世帯全体の収入が目減りしてしまう事態も起こり得る点には注意が必要です。
もちろん、長生きへの備えとして受給を遅らせる選択自体は有効な手段です。
まずはご自身の健康状態や手元の貯蓄額を冷静に見つめ直してみてください。
そのうえで、ねんきん定期便などを活用して具体的な手取り額をシミュレーションし、ご自身に合った受給開始時期を見極めましょう。
本記事は、年金に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務、社会保険、投資判断、金融商品・不動産取引上の判断を行うものではありません。必要資金、税金・社会保険料、各制度の利用可否、投資成果等は、年齢、収入、家族構成、資産状況、居住地、制度改正、市場環境等により異なります。具体的な税額、制度の適用可否、投資判断、ローン・不動産担保商品の利用については、必要に応じて税理士、社会保険の窓口、金融機関、不動産会社等にご確認ください。

